小さな制度のままでは何も変わらない 保育園「加点ポイントの変更」に悩む保護者

 

来年度の認可保育園入園について、合否の連絡を2月10日前後に行う自治体が多い。毎年、この時期になると認可園に入れなかった保護者たちの悲鳴が聞こえてくる。「保育園落ちた日本死ね!!!」のエントリーが公開されたのは昨年の2月15日、今年もツイッター上では「#保育園落ちた2017」「#保育園に入りたい」のハッシュタグに切実な声が書き込まれている。

認可保育園の合否は「ポイント」で決定する。現状では両親がフルタイム勤務であることが「基準点」とされ、このほか「ひとり親家庭」や「双子以上」の場合などに加点されるが、加点の判断項目は自治体によって異なっている。

この加点ポイントについて焦点を当てたのがAERAの記事「保活戦線 ポイント基準の変更で早期復帰がムダになる?」だ。記事内では、自治体による加点ポイントの突然の変更に戸惑う保護者の声が紹介されている。

例として挙げられているのは江東区。これまで、すでに認可外保育園に預けている家庭に対して加点ポイントがつけられていたが、17年度入園申し込みから「育児休業加点」を新設。加点のために育休を切り上げて認可外に入れる保護者が増えたため、「育休をしっかり取りたい人も、切り上げて復帰する必要がある人も同点になるように、加点基準と優先基準を見直しました」のだという。

自治体の意図もわかるが、加点を狙って認可外保育園に預けていた保護者にとってはつらい話だ。認可保育園に申し込んだ知人は、「この時期、保護者同士がちょっとギスギスした感じになるのがイヤ」と言っていた。働く親同士で加点ポイントの競争をしなければならない現在の状況は異常としか言いようがない。AERAの記事についてネット上で見かけた「こんな小さい制度でやりくりしているうちは、根本的な解決にはならない」というコメントに心底同意する。

■突然の加点ポイント変更、情報が行き渡らないことも

加点ポイントの変更について、2013年に杉並区に保護者のグループとして保育の拡充を迫り、現在は東京都の子育て支援員を務める曽山恵理子さんは、杉並区の加点ポイント変更の例についてこう話す。

「杉並区では今年4月の入園について、3人目の子どもがいる家庭には4ポイントを加点するという変更が行われました。去年までは上の兄弟がいる場合は1点、未就学児が1人いる場合はさらに1点。この加点があるままで、4ポイント加点が追加になったので、3人目のいる家庭はすごく有利です同点で並んだ場合は保育士の子どもを優先するという項目もあります」(曽山さん)

こういった変更について、保護者に情報が伝わりづらいという問題もある。

「杉並の場合は10月1日に(翌年度入園分の)加点ポイントが発表されますが、そこから保護者が対策を練って申し込みをするのはなかなか大変だと思います」(曽山さん)

“まなしば”の名でブログ「ままはっく」を運営するブロガーの渡邊麻奈美さんも言う。

「加点ポイントの変更を11月末にもらった紙で知ったという話も聞きました。保護者の方は自分の点数を確認して戦略的に入りやすい認可園を探しているので、加点についての情報を知らないと戦略を変えなければいけなくなる。自分が加点対象だったことを知らない、というケースも中にはあると思います。また、認可外に預けて働きながら認可園に入るための保活をしている人もいて、働きながらの保活は情報入手の点で本当に大変だと思います」(渡邊さん)

■必要な情報、取りに行くためには

加点ポイントの変更が各自治体で確定している場合、役所に問い合わせるのが確実だ。ただ、前述のようにその発表が保護者にとって「遅い」と感じられることもある。曽山さんは言う。

「入園案内の発表を待つ間に、ネット上に公開されている区議会の議事録をチェックするのも大事だと思います。ただ、議事録には保育関連のことだけがまとめられているわけではないので慣れないと自分に必要な情報を取りづらいです。普段から議会に興味を持つといいかもしれません。

たとえば、自分の自治体で待機児童問題に詳しい議員さんを探してみるとか。都内だと、働く母だった議員さんが待機児童を見るに見かねて議員に立候補したという例が少なくないです。各自治体に何人かは待機児童問題に取り組んでいる人がいるはず。

議員さんと接点を持つのが嫌いだという場合は、自分の暮らす地域の近くにいる保育の情報に詳しい人を調べてみるのもいいかもしれません。まなしばさんなど、SNSで情報発信している人もいるので」(曽山さん)

■保育園の必要性は未だに理解されていない?

しかし一方で、曽山さん、渡邊さんは言う。

「とはいえ、こういったことで保護者が対策を行わなければいけないのは本末転倒だと思っています。自治体が待機児童の数を正しく把握できないことに問題があるのでは」(曽山さん)

「このままではいたちごっこ。そもそも保育園を利用したいという"需要"と、それを提供する"供給"のバランスが崩れたままなので、法整備をして強制力をもたせるなど、抜本的な改革が必要だと思います」(渡邊さん)

冒頭でも述べた通り、共働き世帯が増え続ける今、「小さな制度」では間に合わなくなっている現状がある。

「2歳まで預けられる小規模保育園も増えているけれど、3歳からの預け先として幼稚園が預かり保育園の枠を作ってくれるとうれしい。幼稚園への協力を求めている自治体もありますが、実感としては協力的ではない幼稚園もある。幼稚園にどうやって協力を求めていくかはひとつのカギだと思います」(曽山さん)

「保育園を『保育に欠ける人のための福祉施設』という意識を持っている人がいるままだと、なかなかその必要性が理解されない。また、大田区では小規模保育園の設立が地域住民の反対でとん挫するということもありました。事業者だけが増えても理解が得られないと難しい」(渡邊さん)

認可園利用の要件だった「保育に欠ける」という言葉は今、「保育の必要性」に見直されつつある。しかし、保育園を未だに「一部の特殊な人が利用する施設」と考える意識もあるのかもしれない。実際に筆者も、取材現場で保育園や保育園へ子どもを通わせる保護者への「偏見」を見聞きすることはある。これは男性保育士のおむつ替えで話題になった、保育士の専門性や仕事内容が広く理解されていない問題ともつながることだろう。

「#保育園落ちた2017」「#保育園に入りたい」のハッシュタグには、「保育園選考落ちましたので、妻が仕事退職します。こども3人目は諦めます」「もはや、ちょうど働きざかりの二十代から三十代の労働者をわざわざ失業させて、納税額が落ち込む仕組みに見える」といったツイートも散見する。

子どもを育てながら働き続けたい。そんな当たり前の思いを持つ保護者たちが不安を感じない社会に変わるためには、あと2、3回の「日本死ね」が必要なのではないか。そうでもなければ、考え方の古い層の分厚さは変わらない。そんなことを思った。

 

 

小川たまか | ライター/プレスラボ取締役