認可に落ちたけど隣区で見つけた安らげる認証園

 

早くから保活(入園準備)に走り回っても、フルタイム共働きでも、保育園激戦区では認可保育園にすべて落ちてしまうことは、起こり得る悲しい現実。実際に、仕事復帰を目前に認可保育園の不承諾通知を受け取った、多忙なワーママ谷本さん(仮名)は「大好きな子どもと別れるのさえつらいのに、安心できる預け先が見つからない」と追いつめられた気分になったといいます。探し回った末、電車で5駅先の安心できる認証園に出合えた谷本さんの例を紹介します。

 



■認可園の不承諾通知 早く始めた保活も実を結ばない


 「あんなに一生懸命探したのに、書くだけムダだったんだ。もう入れればどこでもいいのかも……」
 2年前の2月、認可保育園の不承諾通知を受け取った谷本さんは、そんな思いだったという。

 それまでは深夜残業や海外出張もバリバリこなしてきたが、娘を出産してから、子どもと過ごす育児休暇中の日々は毎日新鮮で、とても貴重な時間だった。かわいい愛娘の成長を間近で見ることができた約1年。4月の職場復帰を前に、子どもと離れるのが寂しいと同時に、だからこそ安心して預けられる場所を見つけたいと、出産直後から保活(保育園探し活動)に取り組んできた。
 夫も年数回は、国際会議に出席する研究職。フルタイムの共働きなので、第6希望まで書いた保育園のどこかには入れると信じていた。

 書類を出した後、役所から一度電話が入った。
 「希望を出されている園の中に、18時半以降の延長の無い園があります。他の希望園は延長がありますが、もしここに決まっても通えますか?」

 見学した中で、延長は無いがきめ細かな保育が印象的だった私立の認可保育園があった。復帰後は3歳まで時短勤務が利用できるため、希望園に入れておいた。
 「もちろん、『はい』と答えました。3歳以降は時短が使えないとはいえ、印象のいい園だったし、何とかなるかと思って。連絡が来たということは、もうそこに決まりかけてるんだと思って、少しホッとして通知を待っていました」

 しかし、2月半ばに家に届いたのは、どこの園にも入れない「不承諾通知」だった。

 

 

■ママネットワークで、空きのある保育園情報をゲット!

 「区役所からのあの電話は何だったんでしょうね……。わが家に比べるとそんなに多忙ではない仕事のママや、祖父母が近くに住んでいて助けが得られる家庭から『希望の認可園に入れちゃった!』というのを聞くと、やりきれない気持ちになりました。うちは、親が両方とも地方で、普段はサポートも得られない。夫婦二人とも出張や残業がある中で子育てしているのに、認可園にも入れないのか、と…」


 不承諾通知を受け取ったが、仕事復帰の日はもう決まっており、安心して預けられるところがないことに気持ちは追い込まれていくばかり。保育園は出産直後から見て回り、認可園、認証園を中心にそれぞれ5、6園ずつ回っていたが、どこも100人待ちは当たり前で、認可園発表までに入園を確保できた園は無かった。
 夫は子育てには協力的だったが保育園についてはよく分かっておらず、「個別に見てもらえるんだからベビーシッターでもいいし、認可外でもいいよ。お金がかかっても、認可に入れるまではしょうがない」と言っていたが、何だか自分は納得がいかない。一時しのぎの預け先で本当にいいんだろうかと悩んだ。

 その年、同じ地域には共働きでも認可園にすべて落ちた人がちらほらいたため、そうしたママ仲間と連絡を取り合って、必死に情報交換をし始めた。すると、「あの認可外でまだ空きがあるらしいよ」「隣の区なら認証園が空いてるって」とみんなから情報が集まるようになってきた。空いてると聞くと、その園に電話をして空き状況を聞き、説明会に足を運んだ。

■徒歩20分の認可外園か5駅離れた隣の区の認証園か。見学してみると…

 決め手となったのは、ママ同士の情報交換だった。もう3月に入り、認可園の二次募集も落ちてしまい、とにかく復帰まで残された時間がカウントダウンされていたとき、2つの園の空き情報を教えてもらった。1つは、徒歩20分くらいの認可外園A。もう1つは、5駅行った隣の区にある認証園Bだった。早速、両方とも見学に行った。
 「なるべく平日の保育をしている時間帯に見学に行くようにしました。A園は説明会が週末と言われましたが、やはり気になって平日の見学もお願いしました。子どもや先生の日常生活がもっと分かるかなと思ったのです。
 行ってみると、駅から比較的近い認可外園は0~2歳中心。子ども達が部屋じゅうに散らばって、先生も少なくてあまり見ていないし、部屋の中も片付いてなくてぐちゃっとした印象でした。夫はここでもいいと言いましたが、面接は受けたものの私は何だか納得がいかないでいました。しかも、住んでいる区は激戦区で、認証も認可外もいっぱいだったのに、ここだけ残っているのは何か問題があるんじゃないかと思ったんです。
 一方、5駅行ったところにある隣の区の認証園Bは、0~5歳まであり、園庭は無くても3階建ての小さなビル1つすべて保育園だったので、少しスペースにはゆとりがありました。見学時は改修工事中でしたが、入園後すぐにきれいな園舎で過ごせると聞いて、魅力を感じました」

 

 

■焦っていても妥協しない! 見学時に保育をしっかりチェック

 谷本さんの園選びのポイントは、園の雰囲気や施設以外にも、子どもと先生がどのように接しているのかということ。そして、当時は子ども乗せのある自転車を持っていなかったので、バギーに乗せて通え、バギーを預けられるということだった。

 「園によってはスペースが無いから、バギーが預けられないところもありました。通勤電車にバギーを往復持っていくのは避けたかったし、どんどん大きくなっていく子どもを抱っこひもで連れていき続けるのも難しいと思っていたので、バギーは重要でした。最初は、バギーで歩ける範囲ばかり考えていましたが、それなら電車でもいいんだと気づき、保育園探しの範囲を広げたんです」

 最終的に谷本さんは、施設も先生も充実していた5駅先のB園に決めることにした。



■子どもが気に入った認証園の温かさ

 そうして選んだB園には、2歳で認可園の空きが出るまで1年間通った。電車で毎日連れていくのは楽ではなかったが、その保育園に預けてよかったと今でも思っているという。

 「認証園とはいえ、既に近隣で3園経営している歴史も経験もある園だったんです。園長先生の方針もしっかりしていたし、それがきちんと先生達みんなに伝わっていることが感じられました。過去に大きな事故も無いと言っていました。使用済みオムツの持ち帰りも無かったので、電車で帰っても臭いの心配が無かったのは助かりました。
 若い先生ももちろん多かったですが、中にはベテランの先生がいて、娘はその先生が出迎えてくれると泣きやんで入っていくようになったんです。そういう安心できる先生が一人でもいてくれることは、親にとっても安心して預けられるポイントになりますよね」

 認証園Bは、就学まで通園できるが、子どもの大半は0~3歳。通っていた1歳児クラスは、1クラス12人程度で、先生は担任2人と補助1人の3人だった。園は3階建てのビルだったので、入り口が1カ所で混み合う分、玄関で荷物も子どもも一緒に受け渡しができ、親は靴を脱いだり荷物の準備をしたりしなくてよくてとても助かった。

 「朝や帰りなど人数が少ない時間帯は、合同保育で見ていることも多かったが、それも異年齢の交流になって子どもはお姉さん達といられることを楽しんでいました」

 さらに、週に1日は外国人の先生が来て、英語で保育に当たったり、リトミックなどもあったり、そういったサービスは認証ならではで、とてもよかったという。運動会やクリスマス会などのイベントもきちんとあり、家族で参加できたこともよい思い出になった。

 


■認可に決まったお友達が次々と転園していく
 逆に気になったのは、途中で認可園に入れることが決まって転園してしまう子が多いことだった。「もしこのまま5歳まで通うなら……」と思うと、人数がどんどん減っていくのはさみしい気がした。また、通い始めの頃、靴下や下着が無くなることが時々あり、結局見つからないことも多かったので、そういった物の管理に不安になる時期もあった。
 しかし、娘の楽しそうな様子に、電車での通園も乗り越えられたという。

 

 

■認可園に移ってから気づいた認証園との大きな違い

 谷本さんの場合、娘が2歳になった4月にできた新設の認可園Cに入園が決まった。これから就学まで徒歩10分の距離の園に通えることを考えると、入園はすぐ決断できたという。しかし、その認可園Cに入ってから、前に通っていた認証園Bの良さに改めて気づくことも多いという。

 「いまさらだと思いますが、先生って本当に大事なんだなと実感しました。保活をしているときは、園庭や施設、書いてある方針などが気になりましたが、通わせてみると園庭が無くてもお散歩に毎日連れて行ってくれていればいいんですよね。それよりは、子どもに関わる人がどういう人なのか、どう接するのかということが、子どもに大きく影響することに気づきました。
 保活をしているときは、認可園に入れるものだという思いがあって見学していたので、園庭が無かったり、施設が狭かったりする認証園などを見ると、それが“足りない”といった見方をしていました。バギーで通えない園は、無理だと決めつけてしまっていたり。でも、もっと大切なことがあったんだと、複数の園に通わせたことでやっと分かりました」

 認可園Cは、新設ということもあって若い先生も多く、朝夕の送迎でもバタバタしている様子が手に取るように明白だった。迎えに行くと、娘が鼻水が乾いたままのような顔をしていることもあって、きちんと見てもらえているのか不安になることもあった。

 「前の園では、お迎えの前に『きれいな顔でお母さんに会いましょうね』とお迎えの時間になると顔を拭いたりコートを着せてくれたり、身支度してくれていたんですよね。そういった姿を一年見ていたので、認可園で迎えに行った子どもの姿にちょっと驚いたんです。
 それに、認証園Bでは3カ月で朝も泣きやんで保育園に慣れたのに、認可園Cでは半年経っても尋常じゃない泣き方を続けていて心配でした」

 新しい園でなかなか体制が整っていないことが、子どもにも影響が出ていたのだろうと谷本さんは想像する。2年近く経った今では、子どももだいぶ落ち着いて、お友達と笑顔で通えるようになった。



■認可園に入れなくても、まずは落ち着いて情報収集を

 同じように認可園に落ちてしまったママやパパへのアドバイスを聞いてみた。

 「これまで見学に行ったことのある認証園や認可外園に、改めて連絡して空きがあるか聞くこと。また、周囲のママ友などに相談して、『空き情報あったら教えてね』とお願いしておくことも大事です。私は、ママ達の情報に助けられました。
 それと、距離や施設などこれまでより条件を広げて探し直すのも大事だと思います。私のように近隣の自治体でいい園が空いていることもありますから」

 住んでいるエリアから少し地域を広げて探してみることで、選択肢も広がりそうだ。そして、候補に挙がってきた園は、足をしっかり運んで保育の様子や園の雰囲気を見学しておくことも重要。復帰までのタイムリミットが迫って気分が焦っていても、「どこでもいい」と諦めず、できるだけ自分の目で見て納得できる園を見つけたい。

 

 

日経DUAL 2/8(水)